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時評

(朝日新聞 社説)米議事堂騒乱 民主主義の無残な凋落


世界に民主主義の範を垂れる。そう自負してきた超大国の無残な凋落(ちょうらく)ぶりである。

米国の次期大統領を確定させようとした連邦議会が、流血の場と化した。多数の暴徒が議事堂内に乱入、一時占拠した。

銃撃のほか、周辺での爆発物の発見も報じられている。副大統領や議員らは、ガスマスクを持って避難したという。

合衆国憲法が定める政権移行の手続きが、暴力によって遅滞させられた非常事態である。この騒乱がなぜ起きたのか、米政界全体が自省せねばなるまい。

最大の責めを負うべきは、トランプ大統領だ。昨年の大統領選での敗北を受け入れず、「選挙が盗まれた」と支持者たちの怒りをあおり続けてきた。

振り返れば4年前も、人種差別に反対する人々を白人至上主義者が殺傷した際、明確な非難を避けた。昨年の選挙前も、過激な支持者たちに暴力の否定を命じるか問われると、逆に「待機しろ」と呼びかけた。

今回の発端となった集会でも、選挙結果を覆すための「戦闘」が呼びかけられていた。憎悪をあおり、法の支配を侮蔑してきたトランプ政治の帰結が、この痛ましい騒乱なのである。

ただ、いまの米国の分断をひとえに一人の大統領のせいにすることもできない。ここに至る土壌を生んだ格差の広がりや国民統合の失敗は、歴代政権と与野党双方の政治機能の低下によるものだ。

選挙結果として議会上下両院を民主党が制したことは、バイデン次期大統領にとって朗報に違いない。しかし、今回の事件が象徴する国民の分裂を修復するのは至難のわざだ。

共和党幹部は6日、議事を再開させた際、「民主主義を壊す試みは敗れた」と語った。守るべきは米国政治の正統性であると信じるならば、共和党は「トランプ党」と化したこの4年間と決別し、次期政権とともに政治を再生する模索を始めなくてはならない。

政権移行までにあと10日余りあるが、トランプ政権が正常な統治と対外政策の維持を続けられるかすら危ぶまれている。

ワシントンの「恥ずべき光景」(ジョンソン英首相)を目撃した世界の指導者たちは、米国が主導してきた秩序の揺らぎを再認識しただろう。同時に、米国だけでなく、多くの自由主義国に共通する政治不信の深刻さを直視すべき時でもある。

政党や政権が目先の利益を追うあまり、国民全体の持続可能な暮らしと幸福を保障する政治が見失われていないか。危機にあえぐ民主主義の立て直しは、日本を含む主要国にとって喫緊の課題である。

原文出處 朝日新聞