キシコ国境から米国へ不法入国する中国籍の移民が急増している。今年に入りすでに1万件を超えた。ヒスパニック(中南米系)移民と同様に陸路で国境を越え、亡命を希望する者が大半だ。中国の新型コロナウイルス対策で仕事を失ったり、人権侵害や宗教上の迫害を受けたりしたことなどが理由という。
米税関・国境警備局(CBP)が今年1~5月に確認した南部国境からの中国籍の不法入国は1万728件で昨年同期の件数の約18倍。昨秋から増え始め1月に1千人を超え月間では4月の3205人が最多。中国籍は全体の約1%だが、伸びは際立っている。
ルートは、中国からビザ(査証)なしで入国できる南米エクアドルに空路でまず入る。そこからは陸路を徒歩や車で、コロンビアなどの中南米諸国を経て北上する。米国境へは直線距離で約3700キロもある。
テキサス州のメキシコ国境沿いの街ラレードで移民保護施設を運営する「カトリック・チャリティーズ・ラレード教区」のレベッカ・ソロア事務局長によると、中国人の移民を初めて受け入れたのが今年3月でこれまでに約20人を保護。大半が成人男性だが、親子1組、女性も1人いた。
理由を聴取したところ、一番多いのは中国のゼロコロナ対策、都市封鎖によって失業したり事業が継続できなくなったりしたこと。当局から宗教上の迫害を受けたキリスト教徒も5人いた。
警察から不当な取り調べを受けたという女性は「法的な保護がない」ことを挙げた。「共通するのは国の統治に不満を抱き、政府からの抑圧を感じていることだ」とソロア氏。全員が亡命希望者で正式な申請のためロサンゼルスやニューヨークに向かったという。
米国では国境警備当局に拘束された不法入国者が亡命を希望し正当な理由が認められた場合、米国内の裁判所での審査のため滞在が認められる。中国人の亡命が認められる率はヒスパニック系よりも高いという。
中国人が危険な陸路を選ぶのは、新型コロナ流行以降米国ビザ取得が困難になったことがある。コロンビア・パナマ国境地帯は密林や山岳が続くルート最大の難所だが、パナマ入国管理局によると今年1~2月に出入国した外国人で中国籍はハイチ、ベネズエラなどに続き4番目に多かった。
ロイター通信によると、交流サイト(SNS)を通じ密航を手引きする犯罪組織が存在し、中国人とみられる人物が動画を投稿して情報提供し、志願者を引き付けている。
一方、対中強硬派が占める共和党には、亡命希望者を装った中国政府との内通者も交じっている可能性があるなどと、安全保障上の懸念を指摘する声がある。「バイデン政権は中国の不法移民を解放し、法律を執行すらしない」とホーリー上院議員は批判。大統領候補に名乗りを上げたフロリダ州のデサンティス知事も「1万人以上の中国人が南部国境を越えている」と厳格な国境対策を訴える。
原文出處 產經新聞